出演者 滝  慶 之  1999.11.28

 健康は,私達の願い,そしてかけがえのない宝物です。この時間では皆さんとともに,健やかな心とからだを大きく育んでまいりたいと願っております。

---いわき医療最前線---

 健康で心地よい毎日の為に是非お役立て下さい。

 心とからだのクリニック。今日は,前回に引き続きまして社団法人いわき市薬剤師会・滝慶之さんをお迎えして,妊娠と薬による催奇形性についてお話をうかがってまいりたいと思います。先生早速ですが,妊娠前期に服用すると危険な薬にはどんなものがあるのでしょうか。

 抗癌剤は口蓋裂,小頭症,無脳症、性ホルモン剤は女児の外性器の男性化,乾癬治療剤のチガソンは四肢短縮,心臓・腎臓奇形,頭蓋,顔面の奇形など,抗てんかん剤は口蓋裂,心臓奇形など,血液凝固剤のワーファリンは鼻形成の異常,ビタミンAは骨の成長抑制,テトラサイクリン系の抗生物質は歯や骨などの色素沈着(黄色),副腎ホルモンは口蓋裂,その他痛風治療剤コルヒチンなど。
 妊娠すると薬の使用量が高くなると言われますが。
 妊娠によって生じた母体の障害や合併症などのために,医師が投薬や注射したり,妊婦自身が医師の指示なしに薬局等で大衆薬を購入して使用する場合の2通りがあります。市販されている大衆薬(OTCとも言います)は比較的安全なものが多いのですが,中には妊婦等に危険性の高いものもあるので,服用するに際しは注意が必要で,薬剤師又は産婦人科医に相談して下さい。
 妊婦が薬を用いる理由にはどんなものがありますか。
 保険栄養のためが51%で最も多く,ついでつわりの治療が11%,かぜ9%,便秘7%,下痢3%,流産防止のため3%,頭痛1.5%と言う数字が上げられています。
 妊娠中妊婦一人あたりどれくらいの薬が使用されているのでしょうか。また,妊娠中に使用される頻度の高い薬は?
 平均一人あたり2.7種類が使用されています。妊娠中に使用される頻度の高い薬としては,鉄剤,鎮痛剤,ビタミン剤,制酸剤,外用抗菌剤,鎮咳剤,感冒剤,下剤などの順でした。その他,鎮痙剤,催眠剤,利尿剤,抗ヒスタミン剤,などの使用頻度が高いという報告もあります。わが国では妊婦の約1/3は妊娠初期に何らかに薬を使用していると推定されます。
 妊婦が危険期に,薬を使用したとき,結果はどうなったでしょうか。
1.北大産婦人科教室の調査結果では,1976年6月から198610月までの10年4ヶ月に939例,そのうち15例(6.6%)が妊娠前から継続して,または妊娠に気が付かずに継続してあ、妊娠初期に催奇形性が完全に否定できないという薬を使用していました。これら15例は胎児,新生児の異常(奇形)は観察されませんでした。

2.虎ノ門病院産婦人科の調査報告…受診者1173例のうち1%以上にあたる133例が精神安定剤のベンゾジアゼピン系薬剤をマタニティブルーと思われる精神的不安や情緒障害の為,医師から処方される事が多いです。ベンゾジアゼピン系薬剤は薬剤危険度評価点(1〜5段階分類)でも4点にランクされる危険度の高い薬剤です。これら133例は幸いなことにいずれも奇形のない健康児を出産しています。

 男性に投与された薬の影響はどうなりますか。
1.理論的には薬の影響を受けた精子は受精能力を失うか,受精しても卵子は着床しなかったり,妊娠早期に流産して消えてしまいます。出生の可能性があるとすれば,染色体異常とか遺伝子レベルの異常で,催奇形のごとく形態的な異常は発生しません。

2.薬の影響があるとすれば,受精前およそ30日以内に投与された薬です。

3.男性側の投与で胎児に異常が生じる可能性が指摘されているものは,消化性潰瘍治療剤のシメチジン,利尿剤のスピロノラクトン,サルファ剤のスルファサラジン,抗癌剤,痛風治療剤のコルヒチン,乾癬治療薬のエトレチナート等が数や質を低下させることが知られているに過ぎません。

 サリドマイドとアザラシ症について説明して下さい。
1.アザラシ症  アザラシ症の特徴としては四肢の長骨が短く,上肢,下肢の形成不全か,欠損しています。したがって,あたかも手,足が直接胴についている印象を与えます。その他にも多種な奇形を合併する事が多いです。

2.用量との関係  サリドマイドを1回100〜200mg服用しただけでもあざらし症が発生したとの報告があり,人の胎生期にはサリドマイドに極大感受性の高い時期にある事が想像されます。最終月経の第1日より数えて34〜50日の間が危険です。

3.奇形発生の頻度  妊娠初期では20%,受胎後3〜8週の間にサリドマイドを服用した母体から生まれた児ではすべて奇形であったという2つの報告があります。サリドマイド胎芽病の過敏期は児齢20日から30日までのほぼ2週間で,それ以前は流産し,それ以後は異常がなかったと考えられています。昭和34年厚生省のアンケート調査の結果によりますと,日本におけるあざらし症の発生数は昭和33〜38年(1958〜1963年)936例,そのうち358例が死産,出生児542名のうち342名(63%)は出生後まもなく死亡,197名が生存,不明3名でした。ちなみに全世界では8000例といわれています。

 最後にまとめとして。
 妊娠時にはなるべく薬を服用しないことが第1ですが,服用してしまった場合は薬を服用した時期が危険期か,服用した薬が危険度の高い(催奇形性の強い)薬が,また,服用期間が長かったかなどを参考にして下さい。胎児への薬による悪影響は,薬の危険度,服用時期,服用期間によって異なります。胎児への影響が強い妊娠初期でも,危険度が殆どない薬を服用した場合にはそれほど心配はないようです。
 ありがとうございました。前回と今回の2回にわたりまして,妊娠と薬による催奇形性についてお話をうかがってまいりました。滝先生ありがとうございました。