出演者 滝  慶 之 1999.10.24
  健康は,私達の願い,そしてかけがえのない宝物です。この時間では皆さんとともに,健やかな心とからだを大きく育んでまいりたいと願っております。

 ---いわき医療最前線---

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 心とからだのクリニック。今日は,社団法人いわき市薬剤師会・滝慶之さんをお迎えして,妊娠と薬による催奇形性についてお話をうかがってまいりたいと思います。最近は薬による奇形について関心が高まってきたようですが。

  昭和36年のサリドマイド服用によるアザラシ症児之出産以来,薬による催奇形性について関心が高まってきました。
  催奇形性とは?
  妊娠中に催奇形因子が胎児に作用して胎児に奇形を起こす事をいいます。
 先天奇形とは?
 奇形には外表奇形(手足欠損,みつくち等外から見てわかるもの)と内臓奇形(心臓の欠損等外からは分らないもの)があり,産婦人科医が出産時,先天奇形(産まれつきの奇形)が見つかる割合は出生児の約1%といわれています。出生児に奇形がわかるものと,出生後2〜3年位にみつかる(後天性奇形といいます)場合とがあります。
 奇形の要因にはどんな物があるのでしょうか?
 第一に遺伝要因,第二に環境要因,第三に遺伝要因+環境要因の3通りがあります。遺伝要因は約25%,環境要因が約10%,遺伝要因+環境要因は残り大部分です。遺伝要因は変異遺伝子による遺伝病,染色体異常,多因子遺伝病等があります。そのうち,薬+環境化学物質による奇形の発生率は2〜3%で,さらに薬によるものは約1%といわれており,成因としては薬によるものは非常に少ないのです。環境要因には感染,放射線,食品添加物,煙草,大気汚染,母体の病理的状態等が主として胎児の器官形成期(臨界期)にさようして奇形が発生します。
 薬の影響を最も受けやすい臨界期とは?
 胎児発育の途中で外からのえいきょうを最も受けやすい時期を臨界期と呼び,その時期は臓器によって異なります。この時期は各臓器が形成される時期で器官形成期とも呼び,最も危険な時期で,妊娠2週から12週までで,催奇形作用を受けやすく,そのうち2〜6週は臨界期のうちで特に大事です。
 具体的に器官形成期を知りたいのですが?
 神経系は3週から6週まで,上下肢は4週半から7週まで,歯は7週から8週まで,外性器は7週から11週まで,心臓は3週半から6週半まで,眼は4週半から8週まで,口蓋は7週から10週まで,耳は4週から10週までとなっています。
 催奇形性について一般的な決まりがあるのでしょうか?
 

次のような一般的法則があります。

1.時期的特異性…ある特定の型の奇形についてはその作用する時期が決まっていて,それが先ほどお話しました器官形成期で,この時期に催奇形要因が作用すると奇形が発生します。

2.作因特異性…ある特定の因子のみが催奇形性を呈します。また,その種類によって障害の内容も異なります。同一な薬理作用を示す薬剤でも,同一の奇形を発生させるとは限りません。

3.作用する量,強さ,期間…催奇形性要因が一定値以下では奇形が発生しません。作用する量が多いほど,また,作用する要因が強ければ強いほど,作用する期間が長いほど,奇形発生頻度が高くなります。即ち,作用する量,強さ,期間が問題になります。

4.種,系統特異性…一般に動物の種類,系統によって奇形発生が異なります。同一因子でもヒトに奇形が発生して動物では発生しなかったり,また,逆の場合もあります。たとえば,人に強力な催奇形性を示すサリドマイドはマウスやラットでは奇形が発生しませんでした。

5.感受性…感受性に個体差については,薬や感染症或いは放射線に対する先天的に決まった感受性の差があり,遺伝的な個体差があります。

 同じ薬を同時に服用しても,サリドマイドの場合では奇形が発生したのは服用者の1/3にすぎず,残りの2/3は全く影響を受けませんでした。

 胎盤と薬のついての関係はどうなっていますか?
 妊娠4ヶ月になると胎児に胎盤が形成されます。胎盤は母親の体と胎児とを結ぶ重要な臓器で胎児にとっては欠くことのできないものです。
 胎盤の役目はなんでしょうか?
 第一に母体の栄養や酸素がへその緒を通して胎児に運ぶ働きをします。第二は胎盤で物質を代謝させる働きをします。第三はホルモンを作り出す働きをします。つまり胎児にとって胎盤は物質を代謝する肝臓,ガス交換を行う肺,老廃物を母体へ送り出す腎臓の働きを兼ねた大切な期間なのです。さらに,胎盤は種々のホルモンを作る分泌線としての働きをします。このため母体にかかる負担は当然の様に大きくなります。胎盤はこの他,母体から侵入してくる様々な物をいり分ける一種のフィルターの役目もかねています。
 母体が服用した薬と胎盤の関係はどうなっていますか?
 母体が服用した薬は胎盤を通って胎児に入ります。
 胎児の体内に入った薬はどうなるのでしょうか?
 たとえ体内に入っても大人と同様に薬の代謝が行われ,体内に排出できればさほど問題にならないのですが,しかし,胎児の肝臓や腎臓の機能は未熟なため,薬の代謝や排泄は十分に行われず,薬の成分は体内の蓄積されてしまいます。さらに,胎児が尿として羊水の中に出した薬は再び胎児の体に入ります。したがって,薬は胎児と羊水の間を常に循環する事となります。つまり,胎児の薬の影響を受けないでいられる可能性が起こるかどうかと言う点では胎児の重要器官が形成される妊娠4週目から7週目,最終月経の初日から数えての器官形成期が最も薬の影響を受けやすいのです。
 胎盤を通過する薬にはどんな物があるのでしょうか?
 たいばんをよく通過する薬にはペニシリン系やセフェム系の抗生物質,睡眠薬,性ホルモン剤,ビタミンA等があります。いくら通過しにくい薬でも限度を超えて母体に入った場合,胎盤を通って薬は胎児の血液の中に入ってしまいます。濃度が高くなると通過性は高くなります。
 胎児の血液に入った薬はどうなるのでしょうか?
 

1.胎児の肝臓が未熟のために薬の代謝(分解)されにくく,なかなか体外に排出されません。

2.約50%の薬は肝臓を通らず,静脈菅を通して直接胎児の全身にまわってしまいます。

3.脳血液関門が未熟なため,胎児の場合は脳に薬が入りやすいです。成人では脳の血管は物質を通過しにくくなっています。胎児特有のメカニズムのため,薬の毒性が大人の何倍もの効力を発揮してしまいます。

 胎児への薬の影響は妊娠時期によってどう変わるのでしょうか?
 薬が胎児に与える影響は同じ薬でも服用時期によって異なります。それは胎児の各器官が形成される時期(器官形成期),各機能が整う時期,大きく成長する時期と段階をおいて成長して行きます。しかし,どの時期に薬の影響を受けたかによって,障害を受ける器官や,機能,副作用の現れ方も異なります。

1.受精前から妊娠3週間まで…胎児の影響は少ない方です。受精前に服用した薬の影響を受けた卵子は,受精能を失うか,受精してもその卵子は着床しなかったり,流産しても消失するか或いは修復されて健康な赤ちゃんとして出産するかどちらかです。

2.妊娠4週から7週まで(妊娠2ヶ月)…薬の影響が最も敏感に現れやすい時期です。胎児の器官の中で最初に形成されるのが中枢神経系で,これは妊4週目の終頃の当たります。次に,心臓,6週目になると目,耳,四肢ができ,続いて歯,口蓋の形成が開始されます。つまり,妊娠4週から2ヶ月までの時期は退治の重要な器官が形成される時期にあたり,器官形成期で,催奇形性から見た場合は最も催奇形作用を受けやすい臨界期と言えます。したがって,この時期の薬の服用には十分気をつけなければなりません。

3.妊娠8週から11週まで・・・胎児への影響は少なくなってきます。この時期は胎児の重要な器官が一応終わっています。妊娠11週に入ると顔の造作がハッキリし,外観で男女の区別が出来るようになります。手足の指,心臓の中隔など細い部分はこの時期に形成されます。しかし,催奇形性という意味では,薬の胎児への影響はまだ油断できません。

4.妊娠12週から15週まで…催奇形性という意味での薬の胎児への影響は次第に低下していきます。しかし,どんな薬でも安心と言う意味ではないのです。外性器などは長い期間にわたって,薬の影響を受けるのでホルモン剤は特に注意が必要です。

5.妊娠16週から分娩まで…この週は胎児の発育や機能に障害を与えます。この時期には薬による胎児への影響は奇形のような形態的異常で現れることは殆どありません。むしろ問題になるのは胎児の機能的発育に及ぼす影響や発育の抑制です。例えば,副腎皮質ホルモン剤を妊娠末期に多量に使用しますと,胎児の副腎の働きが抑制され,副腎皮質機能不全となります。このため,様々なストレスに対する副腎の働きが低下し,外界との対応が出来なくなります。

 ありがとうございました。今回は妊娠と薬による催奇形性と言う事で全般的なお話をうかがってまいりました。次回は具体的な内容についてお話をうかがってまいりたいと思います。滝先生ありがとうございました。