出演者 小野 聡  1999.09.26
今日の心と身体のクリニックでは、精神安定剤についてお話を伺ってまいります。さてこの精神安定剤ですが、ちまたでも良く知られていますが、歴史的にはどのように使われていたのでしょうか?
 人間は、遠い昔から精神状態に変化を引き起こす薬物を欲しがっていました。超能力に憧れ、神と対話したり、気分転換を図る近道として、天然の植物から抽出されていたアヘンこれは現在の麻薬ですね、各種幻覚剤これは、覚せい剤のことです。カフェイン(コーヒーやお茶)、アルコール類(お酒)、あるいはニコチン(タバコ)などを何千年もの間精神安定剤又は抗不安薬として代用してきました。
 そうですね、アヘンで戦争が起きるほど生活に身近なものだったのですね。
 そうです。そしてその後、カノコソウやブロム化合物が不安に対して使われてきました。1900年代にバルビツール酸として、フェノバルビタールが使われるようになりましたが、この薬には「癖」になるとか、あるいは治療量と致死量の幅が狭いことがわかってきました。

 その後、現在の精神安定剤の基礎となるメフェネシン・メプロメート等が精神安定剤として「癖」にならないということで、華々しく登場しましたが、長期間服用していた患者さんが突然くすりを飲むのをやめた時に、けいれんや不安・感情の変化などを引き起こす例が出現しました。わが国でも、薬局で自由に販売されていたので、多くの乱用患者さんが出てしまいました。

 このような背景の中で、緊張や不安を軽減し、ほとんど副作用が無く、鎮静作用を持っている薬剤として、クロルジアゼポキシドという薬物が合成されました。これが最初の、今で言う精神安定剤です。この薬は世界で広く使われるようになりました。一時期は、あらゆる薬物の中で最も多く処方される薬となり、現在でも、これらの誘導体といいますが、かなりの種類・量が処方されております。

 そうですね、では日本では何種類位使われているのでしょうか?
 現在は、40種類以上です。
 40種類以上ですか?
 はい。これらは、元々クロルジアゼポキシドの有効性・安全性などを改良してたくさんの精神安定剤が今作られています。今でももっともっと安全性の高い精神安定剤が研究・開発されております。
 それでは、その精神安定剤とは、体に対してどのような作用を持っているのでしょうか?
 まず不安を取り除く作用です。病的な不安状態になった人の中では、不安状態が日常化してしまい、少しの刺激に対しても、いつても不安という形で反応するような体になってしまいます。いつも悪い方へ、悪い方へと考えてしまうのです。この人は、変化に対して不安を持ち、変化した事態への準備不足、そしてまた不安、という悪循環におちいってしまいます。その悪循環をどこかで切らなければならないのです。そこで、それを切るために精神安定剤を使うわけです。

 次に、気持ちを落ち着ける作用です。日常生活で、不安や憂鬱と言う状態が続くと、ノイローゼ、いわゆる神経症になったり、ストレスに対して精神的に抵抗しても、身体的な病気として現れてしまう場合があります。この様にならないように、気持ちを落ち着ける為に使われるのが、精神安定剤なのです。

 後、眠気を誘う作用ですが、人間には24時間周期の体内時計がありますが、この時計によって昼夜の行動・睡眠という行動パターンが生まれてくるのですが、精神の病気や寝室周辺での激しい騒音、照明が明るすぎる、または、心臓や呼吸器の病気などで体内時計がうまく働かなくなる場合があります。そういった時に眠気を誘うのがこの薬です。

 また、抗けいれん作用。これは身体のけいれんを抑えるさようです。

 最後に筋弛緩作用と言いまして、筋肉のこりや張りを和らげる作用です。

 今日は精神安定剤についてお話いただいております。先程は4つの作用についてお話いただきましたが、実際、病院などではこの様な薬をどのようにして使っているのでしょうか?
 まず、神経の不安・緊張・あせり・不眠を持った患者さんにそれらを取り除く目的のために使用します。あとは、消化器系疾患を持った患者さんにも使用します。胃とか腸は年中無休に働いていますので、体で最もストレスの影響を受けやすい部分です。ストレスが、胃潰瘍・十二指腸潰瘍という形で現れるのです。新しい抗潰瘍薬の開発などで、ずいぶん治りやすくなっていますが、やはりストレスを取り除く必要があります。それを助けてくれるのが精神安定剤の役割なのです。もう1つ、潰瘍になるには胃の中の酸が多く出過ぎるという原因もあるのですが、その酸の分泌も抑えるという働きもあります。

 次に循環器系疾患、これは主に高血圧ですが、やはりこれも先程言ったように心臓関係ですね、これも年中無休なんでストレスの影響を受けやすい部分です。興奮して頭に血が昇るような場合、それだけで血圧は、30〜50位上がってしまいます。これは一時的なものですが、絶えず不安・怒り・緊張といった精神的ストレス、また過労などの身体的ストレスにさらされていると、慢性のストレス状態になってしまい、高血圧になります。このストレスを取り除くのに使用するのも精神安定剤です。精神安定剤は、交感神経の興奮を抑えるのに使用します。

 いろいろな病気に使用されていることがわかったんですけど他にもなにかありますか?
 更年期障害・自律神経失調症・睡眠導入・麻酔前処置・けいれんを抑えるときなどに使用します。あとは、痛みのある時ですね。この場合痛みを遠ざけるという働きがあります。

 以上のように、精神安定剤というのは、いろいろな病気に対して使われています。というのも病気それ自体が人間にとって不安・ストレスだからなのです。あと人間そのものもストレスという意見もあります。(^^)

 (^^)人間そのものもストレスではね!確かにある個人から見て他人と言うのはストレスのたまものになるんじゃないかなと思いますけど、私の頭の中では、精神安定剤というのは精神的な「病」だけに使われると思ってましたがこの様な「痛み」や「けいれん」を抑える為にも使われるということがよくわかりました。

 まあこの様にすばらしいお薬なんですが、飲んでいて副作用の心配はないのでしょうか?

 やはり薬なのであります。眠気・めまい・脱力感・倦怠感・もうろう感などです。これは薬の作用と関係しています。特に眠気は薬の飲み始めに良く見られますが、続けていくうちにだんだん慣れていきます。ですから、最初に眠くなったからと言って薬を減らしたり、飲むのをやめてしまったりしないでがんばって飲み続けてほしいと思います。

 そして、全員の人にではありませんが、食欲不振・悪心気持ち悪くなることですね、あと嘔吐・便秘・口が渇く・オシッコの出が悪くなる・低血圧などになる人もいます。これらの副作用はお薬全部に言える副作用です。後ほんの少しの人にですけれども、黄疸・発疹・発汗・のぼせ感などです。

 仕事中に眠くなると言うのは結構キツイですね。それから習慣性・癖になるということはありませんか?
 現在の精神安定剤・睡眠薬では、乱用・癖になることはほとんどありません。但し、過去に薬物乱用をした人は要注意です。重篤な離脱症状、つまりお薬を止めるときに幻覚などを引き起こすことがあります。ただし、一般の人は医師の指示通りに服用していれば、癖になるようなことはありませんので安心してお薬を飲んでください。
 先程のお話の中に精神安定剤の作用の中に眠気を誘うと言うのがありましたが、睡眠薬とは違いがあるのでしょうか?
 現在の睡眠薬は精神安定剤の一種と考えていいです。現在使用されている睡眠薬は短時間型。つまり薬の効いている時間が短いものです。なぜ時間の短い薬を使うかというと患者さんの中で最も多いのが「眠れない」ということで寝つきを良くするための薬です。

 後は副作用の問題です。今までの経験から効いている時間の長い薬の方が副作用が多いのです。但し患者さんの訴えまたは症状により効いている時間の長い薬も出します。例えば、睡眠の途中で目が覚めてしまうとか早く目覚めて困るとかですね。

 また、患者さんからよく質問されるんですが、『いつまで飲み続けなくちゃいけないですか?』ということですね。これはまず薬を止めてみてちゃんと眠れればその時点で薬を飲むのをやめた方が良いと思います。あと、自分の判断で薬を飲むのをやめても良いかという質問もありますが、これも自分の判断でやめても良いでしょう。

 やめられなくなるかと言う質問もありますが、これは長期間使用あるいは患者さんの性格などの問題から気持ちの上でやめられなくなる事はあります。

 それでは最後になりますが、精神安定剤や睡眠薬を服用するときの注意などありましたら教えてください。
 精神安定剤・睡眠薬はお酒と一緒に飲むのは絶対しないでください。だいたいどの薬もそうですが、特にお酒と精神安定剤を同時に服用すると薬の作用が強まり、効果が出すぎてしまいます。また、薬もお酒も肝臓で分解されるので肝臓での負担が高め、肝臓が悪くなる場合があります。薬とお酒の量をセイブして使う方法もあるんですね。ただ上手くお酒をセイブ出来ないのが普通の人ですから(^^)一緒に飲むことはくれぐれもしないで下さい。

 あとタバコとの影響もあります。ヘビィスモーカーの人は薬の分解を早めてしまいますので、タバコを吸わない人より多くの量の薬を使わないと効果が出にくいといったことがあります。だいたい精神安定剤というと、患者さんは余り良いイメージを持ってないようですが、医師の指示を守って使用していると、いろいろな病気を治す助けをするお薬ですので、精神安定剤が処方されたとしても嫌がらずに飲むことをお勧めしたいと思います。ただ、薬だけに頼らず、日常生活の中で趣味やスポーツなどで気分転換を図りストレスを溜めない工夫や朝・昼・晩の生活のリズムをきちんとするだけでも病気が良くなる場合もあります。ただ気になる症状がある場合は病院や薬局に相談された方がよろしいでしょう。

  ありがとうございました。