出演者 時田完司 1998.06.27

 漢方治療のお話も今回で3回目になります。1回目は漢方薬と民間薬との違いとか、漢方医学と西洋医学の治療概念の違いなど「正しい知識」と「正しい使い方」を理解していただくための基礎的なお話をいただきました、また、2回目は現代医療の最前線で、漢方薬はどのように使用されているのかとか、医学部の学生は漢方医学についてどのような教育をされているのかという点について、アンケート調査をもとにお話をいただきました。
今回は、「こんな疾患にはこの処方を使用します」というような具体的な各論のお話をお聞きしたいと思います。

 そのまえにみなさんにご確認しておいて頂きたいことがあります、漢方薬を服用する場合「証」に合った処方を服用することが大切であるということです。「証」というのは、自覚症状や他覚的所見からお互いに関連し合っている症候を総合して得られた状態、つまり体質・体力・抵抗カ・症状の現われ方などの個人差をあらわすものです.これは病院や医院の先生方が、患者さんから病気の症状を聞いたり、腹診や脈診により患者さん自身の体が表している情報をもとに決定するものです。ですからここでお話しする、疾患別に使用される漢方薬は、その疾患に使われる代表的な処方を中心に紹介しますので、それは.この放送をお聞きになっている患者さん個人の「証」にあった処方ではないかもしれません。そのため漢方を希望される場合は、お近くの病院・医院の先生や薬局の先生に必ず相談して処方して頂いてほしいということです。
 そうですね、自分にあった漢方薬を服用することが、漢方薬の効果をよリ引き出すことにつながることを1回目にお聞きしました。それに、あまり知られていないようですが、漢方薬は健康保険が適応になっていることも伺いました。専門の先生の診断により自分にあった漢方薬を服用するように心がけたいと思います。
それでは各疾患についてお話しいただきたいと思いますが、1回目のお話の中に「漢方治療が向く病気は、病院において検査や画像診断をしても異常がないのに、自覚症状があるというような病気、原因の特定できない慢性の病気、体質がからんだ病気などに漢方が向くことが多い」というご説明があったと思います。具体的にはどのような疾患でしょうか、そのへんからお話しいただきたいと思います。
 わかりました。それでは日本医師会が発行している「漢方治療のABC」という本に沿ってお話を進めたいと思います。まず不定愁訴、頭痛、冷え、肩こりなど原疾患がわからないような愁訴のことですが、これで最初に思い浮かぷのは「更年期障害」ではないでしょうか。閉経前後の40歳代後半から50歳半ぱまでを更年期といいまして、更年期障害とはその時期に起こる不定愁訴群のことです。症状の種類、現われ方は一人一人違っていて非常に苦しむ人からほとんど症状がなく更年期を過ごす人もいます。更年期は、卵巣機能の低下によって女性ホルモンの分泌が急激に減少する時期です。その新しい変化にとまどって、体も精神面も不安定な状態になります。その上この時期にはお子様の自立や御主人の退職など生活環境の変化も多く、精神的なストレスや悩みが追い打ちをかけます。こうして自律神経の働きに乱れが起こり、それが不定愁訴となって現れるのです。症状は多彩で、原因のはっきリしないほてリ、のぼせ、発汗、不快感の訴えがもっとも多く、冷え、動悸、頭痛、腰痛、めまい、不眠、うつ気分、イライラ感の他、便秘や排尿障害、不正出血などの症状もみられます。一人でいくつもの症状を抱えたり、日によって症状が変わることもあります。西洋医学的には女性ホルモンの補充療法がもっとも効果的です。ただし、これは精神的影響の大きい症状を改善するカはあまりないようです。以前は副作用の心配もありましたが、その後新しい投与方法でその心配もほとんどなくなくなりましたが、日本ではこの療法に抵抗を感じる人が多いのも事実です。この選択は、お医者さんと相談の上治療を受ける本人が決めるものだと思います。
 女性にとって 更年期障害 これは必ず訪れるものと言うか、対面しなければいけないことですが この場合、漢方治療はどのようなポイントがありますか。
 多彩な愁訴のあるこの疾患でも漢方薬はその人の「証」をみて処方を決めるので一つの処方、多い場合でも2つでの治療をすることがほとんどです。また、先ほどお話の中にもでてきましたが、症状が自覚的、精神的なものが多く機質的な病変がない疾患なので、
漢方治療に適していると思います。そして この治療に用いられる漢方薬は多くの種類があるので一人一人にあった治療ができるということが特徴だと思います。
 それでは、代表的な漢方薬を教えてください。
 「漢方治療のABC」によると、のぼせと冷えが交互にきたり、イライラが強くて怒りやすいような方で、頭痛、肩こり、めまい、発汗、不眠、不安などの自律神経系の症状のある場合は、加味逍遙散という処方が適しているということです。また、色白で貧血領向・体質虚弱・疲れやすい方で、足腰の冷え、頭痛、めまい、下腹部痛などがある場合は、当帰芍薬散という処方が適しているようです。その反対に赤ら顔でがっちりタイプ便秘気味という方で、頭痛、肩こり、のぼせ、月経異常などがある場合は、桂枝茯苓丸という処方がよいようです。
 女性の冷え症というのは、更年期とはあまり関係なく現れると思いますがどうでしよう。
 そうですね、冷えを訴える人は圧倒的に女性が多く、成人女性の半数近くが冷えると答えた調査結果もあるそうです。その原因には貧血、低血圧、性ホルモンや自律神経の失調、甲状腺機能低下などがあリますが、はっきりした原因疾患が見つからない場合も少なくなく、西洋医学的には「性格の性の字」を書き体質的な「冷え性」と考えてあまり治療の対象にはならないようです。漢方では、冷えは種々の健康障害の基になると考え「やまいだれの症の字」を書き「冷え症」といいます。冷えは更年期の女性のものとは限りません。最近では不規則な生活や文トレス、過度の冷暖房、入浴に変わるシャワーなどの生活環境がひきがねになり、若い女性にも冷えを脈える人が増えているようです。
 そうですね。私も足が ホントに冷たくなってしまって まわりでも靴下をはかなければ眠れないという方がいますが、どんな治療が必要ですか。
 貧血や甲状腺機能異常などの原因疾患がある場合はまずそれを治療してください。体質的な場合は漢方薬の出番となります。
 漢方薬が出番ということですが、漢方治療のポイントを教えてください。
 患者さんの冷えがどのような冷えなのかを確認することから始まります。新陳代謝低下による冷えなのか、胃腸機能の低下による冷えなのか、末梢血管のうっ血による冷えなのかあるいは水分分布異常など代謝の異常による冷えなのか等を確認して、その患者さんに一番あった漢方薬を使います。
 冷え性といっても原因が さまざま いろいろあるということですが、どんな漢方薬を便用しますか。
 虚弱な女性で貧血傾向、疲れやすく、頭重、めまいなどがある冷え性の方には、当帰芍薬散が使われます。また、体全体が寒冷に敏感で、手足の冷えがあり、冬はしもやけになるというような方は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯という非常に長い名前の処方が使われます。老化による症状、たとえぱ下半身の脱カ感、夜間頻尿、タ方のむくみ、朝の口内乾燥感などがある場合、附子というからだを暖める生薬の含まれている八味地黄丸という処方が使われます。
 冷え性も悩みの一つですが 必ず女性の悩みベスト5に入る「便秘」についての漢方療法を教えてください。
 腸に大きな病気、ちょっとオーバーですがたとえば潰瘍ですとか癌というような重大な病気がないのに便秘で悩んでいる方は多いと聞いております.便秘の原因には、いろいろなものがあります。たとえば、腸が弛緩して便を送り出す力が弱くなる場合があり、これを弛緩性便秘といいます。また、便が腸の出口の直腸に達しても便意を感じなくなる場合があり、これは直腸性便秘といいます。あるいは、.ストレスなどによリ腸が収縮して起こる場合もあリ、これはけいれん性便秘といいます。このようないろいろな原因によって、習慣性便秘、常習便秘と呼ぱれる慢性の便秘になり悩んでいる人、西洋薬の下剤が合わないとおっしゃる人に漢方治療が有効であると思います。
 西洋薬では強すぎるとか 人によって個人差があると思いますが、どのような治療法があるのですか。
 慢性の便秘によく用いられる漢方薬をタイプ別にお話しいたします。.一つは緩下作用のある生薬「大黄」大きい黄色と書きますが、この大黄を含む薬です。代表的な処方は、大黄甘草湯です。大黄は下剤の働きが強いので、体カを消耗する可能性がありますから、漢方の証でいうと実証から中間証の人に使われます。二つ目は。腸が乾燥しているために便泌がおきている場合、これは高齢者に多いのですが乾操したコロコロの便がでるようなタイプです,このような方には腸を潤すような漢方薬を使用します。代表的な処方は、麻子仁丸や潤腸湯です。その他冷え症や虚証の人の便秘には、体を温めて腸の働きを整え排便を促すような漢方薬、代表的な処方は、桂枝加芍薬湯です.ただし、習慣性便泌では、薬だけに頼らず、規則正しい排便習慣をつけることが大切です.そのためには、薬を使う間はきちんとのみ、食事もとって、定期的にトイレに行くというように、薬のカは借りてはいるものの生活習慣も正しくし、便通を整えるのが先決です。薬は必要な間きちんと使ったほうが、早く慢性便秘から脱することができると思います。
 自分にあった漢方薬を服用しながら、規則正しい生活習慣を身につけることが大事であくまでも薬は補佐的なもの 自分の生活習慣を治していかなければ病気も治らないということですね。さて最後に私の友人の悩みなのですが、いわゆる“頭痛持ち"なんです。病院の検査では異常がないといわれるのですが、漢方治療は有効ですか。
 検査をしても異常が見つからないのに頭痛に悩まされるという人は、是非試してほしいと思います。ただこの番組を聞いている方々のためにもう一度いっておきますが、頭痛の原因はざまざまです。なかには脳の重大な病気が原因になっていることもあります.頭痛がある場合には、まず、きちんと検査をして、西洋医学的な診断を行うことが第一です.たとえぱ、またオーバーになるかもしれませんが脳腫瘍やクモ膜下出血などが原因であれば、外科手術も必要になります。そうした原因のない頭痛が、漢方治療の対象となるわけです。熱の出る急性の病気に伴って起きる頭痛にも漢方薬は用いられることがありますが、主として、用いられるのが慢性的に起こる常習性頭痛で、とくに効果があるようです。常習性頭痛には、肩や首すじのこりを伴う筋緊張性頭痛、頭の片方がズキンズキンと痛む片頭痛などがありますが、漢方薬にはそのいずれにも対応する薬があります。
 片頭痛で悩む人がまわりに結構いるようですが、どんな漢方薬が使われますか。
 筋緊張性頭痛では、代表的なのが葛根湯です。
 葛根湯 これはよく聞く名前ですが、葛根湯は風邪のお薬だと思っていました。
 葛根湯は、発熱悪寒があって、首筋から肩にかけてこりのある人に使われます。風邪の初期にこのような症状があることから風邪に用いられ 非常に効果があるので風邪薬の代名詞のようになっていますが、頭痛や肩こりにもよく使われます。
 その他の頭痛にはどのような漢方薬が使われますか。
 片頭痛では、呉茱萸湯がもっともよく用いられます。体が冷えている人の、体を温めて頭痛を解消しようとする薬です。このほか、五苓散という処方もよく使われます。
西洋薬の鎮痛薬をのむと胃腸障害が起こるという人や、妊娠中で鎮痛薬を使えない人などでも、使える薬があリます.その他にも、漢方薬によって.長年苦しんだ生理に伴って起こる頭痛から解放されたという女性も少なくありません。生理時に頭痛になりやすい女性には、先ほど更年期障害でもお話しした薬と重なりますが証に応じて、桃核承気湯や桂枝茯苓丸、当帰芍薬散などが用いられます。不定愁訴の多い人には加味逍遙散を使うこともあります。
 わかりました、私の友人にかかりつけの先生に相談して漢方薬を処方していただく方法もあると紹介してみたいと思います。最後にリスナーの皆さんに質問がございましたらFAXをお寄せくださいといいましたところ まーくんのママからFAXを頂きまして まーくんのママは花粉症に悩んでいたと で、おなじ症状を持っているお友達が漢方を使っていたということでその薬を 同じものを使ってもいいのかどうかという質問を頂いていたのですが。
 そうですね。同じ漢方薬 同じような症状があるからということでご自分の友人が飲んでいたものを頂いて飲むと言うことですが これはやめていただきたいと思います。やはり 症状というものはご自分でみるのではなくて きちんと先生に診ていただいてその上で処方されて飲むということが最もよろしいことだとおもいます。
そうですよね。きっとこの3回聞いていれば 漢方薬、同じ症状でも人によって違うと言う証ということばがたくさんでてきました。
 おっしゃるとおりです。今回は限られた時間でしたが、いろいろな疾患にどのような考え方で漢方薬が使われているのかお話ししてまいりましたが、漢方薬というのは一つの疾患でもその症状によって、様々な処方を使用するということが分かっていただけたと思います.何度も繰リ返すようですが、漢方薬を服用する場合「証」に合った処方を服用することが大切です。証に合わない薬を用いるとさまざまな問題が出てきます。漢方薬で問題が出るのは、ほとんどが証に合わない薬を使った場合だといわれています。一つの疾患でも用いる漢方薬は非常に多くの種類があリます。また、同じ患者さんでも病体の変化などによって証も変わリますので、十分に証を考慮し、適した薬を選ぶことが大切になります。その他注意しなければならない一例ですが、高血圧や狭心症、心筋硬塞などが
ある人では、麻黄や人参の入っている薬で血圧が上ったり発作を誘発することもあるとされています,必ず専門医に相談してください。かぜで頭痛がするからといって、安易に葛根湯をのんではいけません。.また、大黄という下剤の働きをする生薬や地黄・川芎・麻黄などの生薬が入っている処方は、胃腸の弱い人にとっては食欲不振、胃部不快感、嘔吐等の症状がでる場合がありますので、注意する必要があります.妊娠中の人も、大黄など緩下作用のある薬を多量に使うと、注意しなければならない流早産につながる心配も考えられますので避けて<ださい。一般に、ふだん実証の人でも、妊娠中は虚証に傾くと考えます。漢方薬といえども、妊娠中は慎重に使う必要があるのです。心配になるようなお話で、漢方薬のコーナーも時間がなくならてしまいましたが、漢方薬はとても楽しい薬です..漢方薬の知識に少しでも関心を持たれると、普段の自分の体質や症状に関心が出てきます.例えば、病院に行くまでもないが、どうも調子が悪いとか、昔と変わってきたとか思うことがあると思います.そんな時にも、漢方を考えると、あきらめていた治療に一つの解決手段が加わることになります。「証」という言葉を難しく捕らえることはあり.ません。ご自分の体質や症状に目をむけ、それにあった漢方薬を先生に見つけてもらうことが、大病になる前の初期治療につながるということもあるのです。この放送を機会に、ご家族やご友人と漢方のお話しをしてみてはいかがでしょうか。
 そうですね。漢方薬 漢字にすると10個ぐらい並んでしまうような難しいものもありますが 専門医に行った時にそれを下さいと言う必要は全くないのですから 御自身のいまの症状を素直にお話いただければ その方の証にあったものをきちんとだしていただけるということになりますので、今までいろいろ悩んでいた方は 選択肢が増えたと言うことで漢方薬をうまく利用していただきたいですよね、ということで時田さんには 3回にわたって漢方のお話をいろいろ伺ってまいりました。どうもありがとうごさいました。
 こちらこそ ありがとうございました。