出演者 時田完司  1998.04.25

 時田さんには、これから3回にわたりまして 漢方の基礎知識を教えていただきます。まず、最初 今日の一回目ですが 漢方についていろいろ耳にはしていますが、細かいこととか わからないことがたくさんありますので いろいろお伺いしていきます。まずは 漢方医学とは中国の医学のことですか. 

 いいえ違います。漢方医学は、中国系伝統医学が日本に伝えられ日本独自の発展を遂げ、現代まで受け継がれてきた伝統医学の一つです。約500年間日本の医療を支えてきました.
 かなり歴史のあるものですが 漢方という名前も日本だけの言葉ですか.
 そうです、漢方という名称は、江戸時代中期以降に伝来した西洋医学を『蘭方」と呼び、これと区別するために「漢に起源を持つ医学」ということで「漢方』と呼んだことから始まります.現代中国医学は中医と呼ばれているのですがこの中医と漢方医学は、明以前の中国医学を起源としているため、薬物・用語などの面で共通点が数多くありますが、それぞれ異なる発展を遂げた医学です.
 今お匿にでました薬物とは、漢方薬のことですね。
 そうです、漢方薬とは、漢方医学に使用される薬方(処方)のことで、天然物である生薬(薬草の根や茎、葉などの有用部分を乾燥させたものや動物由来のもの、鉱物など)を原則として;二種類以上組み合わせた薬です。
 よく薬局で見かける センブリとかゲンノショゥコも漢方ですか.
 よくかんちがいされる方がいるのですが、センブリ・ゲンノショウコなどは民間薬と呼ばれるものです。
 そうしますと 漢方薬と民間薬はどう違うのですか。
 漢方薬と民間薬はともに生薬を使用し何らかの薬効があり、古くから伝統的に使われてきたという点では同じです.しかし漢方薬は漢方医学の理論に基づいた処方の構成がなされており・原則として二種類以上の生薬が配合され、製法'用法'用量までが古典に記されています.一_方、民間薬は伝承的・家伝的な薬で一種類の生薬からなり.用法・用量も詳細には決まっていません。たとえぱ・漢方薬は葛根湯 よく風邪の初期に使われる薬ですが 八味地黄丸・当帰芍薬散というように処方名があリますが民間薬はドクダミ・センブリ・ゲンノショウコというように植物の名前そのままで呼ばれています。
 民間薬は、そのままで呼ばれているということでドクダミ、センブリと言われてもイメージしやすいのですが、漢方薬の名前はむずかしく覚えにくいものがありますが、どうしてですか.
 漢方薬の名前にはそれぞれ意味があるのでどうしても複雑になります。名前の付け方には次のようなものがあリます。まず、風邪の引きはじめに効果のある有名な葛根湯・麻黄湯などのように、配合されている主な生薬の名前に由来するものがあります.また、風邪の症状はなくなっているのに何となく体が
だるいとか、手術後なかなか食欲がでないなどという症状に効果がある補中益気湯というというお薬がありますが、この名前の意味は、おなかを補って元気を増す、つまリ胃腸の機能を補って元気をつける効果があるというよに、薬の効能を処方名に表しているものもあります。そのほかこの両方を合わせたような名前もあり、覚えにくいかもしれませんが、その意味を知るとなかなかおもしろく納得いただけるものと思います。
 まるで漢文を勉強しているような気もしますが意味を考えていけば なるほど 薬の名前を見ればわかるような感じもします。漢方薬にはどのような種類がありますか.
 漢方薬の剤形には『湯剤』『散剤』『丸剤』『エキス剤』などの種類があります.湯剤とは、葛根湯・小柴胡湯などのように名前の後ろにお湯という文字がつく処方で、土瓶などに生薬と水を入れて加熱し、生薬の成分を抽出する、いわゆる煎じ薬のことです.散剤とは、当帰芍薬散・五苓散などのように名前の後ろに「散歩の散、散らす』という文字がつく処方で生薬を粉末にして混合したものです『丸剤』とは、八味地黄丸・桂枝茯苓丸のように名前の後ろに丸という文字がつ<処方で生薬を粉末にしたものにハチミツなどを加えて丸く国めたものです.
 最近病院でいただく漢方薬はそのような種類とは違うようですね
 病院・医院で使われるほとんどが『エキス剤』とよぱれるものです。'エキス剤とは、本来は「湯剤』「散剤」、「丸剤」として服用されていたものを、大きな製造設備を使い品質管理を厳密に行って製造された漢方製剤です.これは製造設備により配合生薬の比率や煎じ方を古典どおりに再現し、エキス分を
抽出、水分を蒸発させてr乾燥エキス」をつくります.そして、西洋薬と同じように『錠剤」『顆粒剤」「散剤」『カプセル剤」といった形に加工したものです。
 いろいろあるんだなあと思いますが病院で処方されている漢方薬は、健康保険が利くのですか。
 現在杓150種類の漢方薬が健康保険適応となっています.現代医療の場では、西洋医学と東洋医学の融和を目指して漢方医学が見直されつつあります。漢方薬も西洋薬と同様に科学的な解明がなされつつあり、西洋医学では十分に対応できない部分を埋めることや西洋医学との併用により、特に高齢化社会に
おける医療への貢献が期待されています.
漢方薬と西洋薬はどう違うのですか。
. 西洋薬は人工的に化学合成された物質がほとんどで、その多くは一つの成分で構成されており,一つの疾患や一つの症状に強い薬理作用をしめします。それに対して漢方薬は天然の生薬を使用し一つの薬方は原則として;二種類以上の生薬で構成されていますから、多くの成分を含んでいます.そのため、一つの薬方で色々な病状にも対応することができるのです.
 西洋医学的治療が向<病気と漢方治療が向く病気があるということですか.
 そうです。病気の原因が特定でき、原因別の治療が可能な場合や手術が必用な場合、緊急な疾患、重症の感染症などには一般的には西洋医学の方がすぐれています.漢方治療が向く病気.は、病院において検査や画像診断をしても異常がないのに、自覚症状があるというような病気です.原因の特定できない慢性の病気、体質がからんだ病気には漢方が向くとが多いといえます.
 漢方でよく証という言葉がでてきますが証とは何のことですか。
 『証』とは証明の証、あかしという字ですが、自覚症状や他覚的所見からお互いに関連しあっている症候を総合して得られた状態、つまり体質・体カ・抵抗カ・症状の現れ方などの個人差をあらわす漢方独特の用語です葛根湯証とか八味地黄丸証などと処方名で表され、この症状にはどの漢方薬を使用すれぱよいかというような治療の指示につながっています.言い換えますと、からだが病気とどんな戦い方をしているかをみるもので、体質や抵抗カ、病気の進行などをあらわします.
 証とはどのように決められるのですか。
 漢方では、その時のからだの状態を次のような観点から判断していきます。例えば、その患者さんが冷えや寒さなどを感じているのか、ほてりがあつて暑がっているのか。体カがあり病気に対する抵抗力がある状態なのか、体カが低下していて病気に対する抵抗力が弱い状態なのか.かぜの場合には、かかったぱかりなのか、かかってから数日経過して胃や腸の具合も悪くなっているのか.このように、からだ全体の状態をつかみ処方を決定することを証をみるとか証を決めると言います.
漢方では、証に合った薬を使うことによリ病気を治します.ですから、お医者さんに診断してもらう時又ば薬局でお薬をお求めになる時は、できるだけ詳しく症状をお話していただけると、からだに合ったお薬を服用することができます.
 漢方薬にはいくつもの効能・効果があるものがありますが、どうしてですか.
 漢方薬は、飲まれる方の体質、現在の体の状態、症状の現われ方などから総合的に判断してお薬が決められます。したがって、漢方医学的に証が合えば、西洋医学的には異なる病名であっても、同じ処方を使用することが少なく'ありません。そのため、幅広い病状・症状に適応することになり、いくつもの効能・効果が期待できる訳です.ですから、有名な葛根湯も風邪の初期だけではなくじんましんとか肩こりにも使われることがあるんですよ.
 漢方薬は、西洋薬に比べて副作用が少ないといいますが、本当ですか。
 副作用については最近いろいろ話題になっていますが 漢方薬は、一般的に効きめがおだやかなものが多いことから、副作用がない、副作用が少ないと思われている人が多いようですが、これは間違いです。薬である限り、どのような薬にも必ず薬効があるのと同時に副作用があります.漢方薬にも副作用があるものです.漢方薬の場合でも体に合わなくて腹痛や下痢、湿疹などを起こすことがあります.しかし、そういった場合もその漢方薬の服用をやめることにより消失することがほとんどです.安全なイ.メージがありますが体質と症状にあった漢方薬を正しく飲むことが大切です.
 漢方薬も薬であるということをしっかり認識しておかなければいけないことですが、どんなときに副作用がでるのですか。
 .薬の種類によって、また、人によって、副作用の発生頻度や種類、程度は違ってきます漢方薬の副作用についても処方ごとに異なりますので、お医者さんや薬局の先生又は製薬メーカー等にお問い合わせください。副作用は薬を正し<服用していても起こることがありますから、薬を飲んだ後、病状が悪化したり、何らかの変わった症状が現れたり、どうもいつもと違うな?と感じた時には服用を中止し、すぐにお医者さんや薬局の先生に相談してください.
 漢方薬も薬なんだということですが、漢方薬を他の薬と併用して服用する時、どんなことに気をつければよいですか。
 二種類以上の;薬を同時に服用する場合に問題となるのは、一方の薬の薬効が期待どおリに現れなかったり、逆に薬効が増強されるなど思わぬ現象が起き、、ることです。したがって、二ヵ所以上の病院や薬局でもらったお薬を自分の判断で併用することは絶対に避けてください漢方薬に限らず、お薬を併用する場合は、必ず、'かかりつけのお医者さんや薬局の先生に相談するようにしてください.
特に、ご高齢の患者さんは、服用されるお薬が多いと思いますので注意してください.
 同じ症状の人であれば、同じお薬を服用してもよいですか。
 漢方では同じ症状を現していても、先ほどご説明いたしましたように患者さん個人の『証』により使われる漢方薬は違つてくることがあります.つまリ、自分には効果のあつた漢方薬が、同じ病状のようにみえる他の人に効果があるとは限りません。かえって副作用がでることもあります.
家族が自分と同じ病気と思っても自分の薬を飲ませるのではなく、お医者さん又は薬局の先生に相談して、その人に合った適切な漢方薬を服用してください.
 漢方薬はなぜ食前又は食間に服用するのですか。
 漢方薬の食前又は食間服用は、胃の中がカラになっているほうが薬効成分がよく吸収されると考えられたからです。
 忘れてしまったとき、食後服用してもかまわないですか。
 飲み忘れた場合には、食後に殴用しても差し支えありません。また、「食前又は食間に飲むと胃が悪くなって困る」という方も食後に服用しても差し支えありません。
 顆粒や錠剤などは水以外のもので服用しても良いですか。
 原則として水又はお湯で服用してください.小児の場合など.苦くてどうしても飲みにくい場合は水飴をからませて服用したり、服用後に水で口をゆすいでください。
 ついついやってしまうのですが、お茶で服用してもよいですか。
 お茶やコーヒーなどはその成分のタンニンやカフェインの作用で悪影響をもたらすことがありますので、さけてください.その他好ましくない服用方法は、牛乳やジュースも薬の吸収低下や化学変化を起こすおそれがあると言われています。またお酒による服用は、アルコールと薬の相互作用により、薬効に影響することがあります。
 やっぱり お水 お湯が原則ですね。では この漢方薬はどのように保存したらよいですか。
 漢方薬は直射日光をさけ、湿気の少ない所に保管することが基本です.また、小児の手の届かない所に保存してください.保存温度としては日常のお部屋の;温度で差し支えありませんが、開封後は特に湿気に注意してください.
 子供のために分包された漢方薬を開封した後、保存したいのですがどのような方法が望ましいのでしょうか.
 1包を何回にも分けて服用する場合は、切口を二重に折り曲げたリ、セロテープなどで密封し冷蔵庫などに保管してください.ただし、開封後のお薬はあまリ長く保管しない方がよいでしょう。
 以前にもらったものと色、におい又は味が違うということがあったとして これは、大丈夫ですか。
 漢方薬も他の医薬品同様、個々の薬ごとに設定した製品規格に基づき品質管理がなされていますが、漢方薬に使用する生薬は天然物であるため、気候、採取する時期.、産地などの違いから色、におい等が違ってくることがありますが、気になるようでしたら、処方していただいたお医者さん又ば薬局の先生に相談してください。
 はい、わかりました。漢方薬に対する誤解のようなものが 私の中にあったような気がしますが 漢方薬も薬なんだということがしっかりわかりました。また 時田さんには 次回も漢方薬についていろいろ伺っていきたいとおもいますのでよろしくお願いします。